うりづん日記電腦版

<第1章 うりづん日記>

4. 不定期一支日記

9月2日
 現場は順調。検出作業以降は若干遅くなったとはいえ、それはこっちの都合ではないので関係ないといえばない。
 火傷が痒い。とにかく痒い。今日ガーゼをどけたら小っちゃい水泡が大量に出来てた。あと風呂場で思いっきり患部を洗ってたら、最初にデッカイ水膨れが出来た箇所の皮がずるり、と剥けて下から新しい皮膚が見えた。思ったよりも回復が進んでる気がする。

9月3日
 傷が痒い。とにかく痒い。
 今日から本格的な実測開始。いよいよ仕事してる気にさせられる。

9月4日
 痒い……。
 今日も昨日に続き、上面遺物の出土状況実測だけど……。
 何か、仕事が中途半端だ。こんな状態でとれって言われてもろくな図面にならないんだけどなあ。結局2度手間になったり中途半端な結果しか出なかったりで、苦労するのは自分たちなんだけど?
 俺らはそのぶん楽で良いけど。マジで。
 一部の作業員からも見抜かれてるし、このままだと予想以上に時間かかるかもしれない……。
 痒い……。

9月5日
 図面に乗らない。乗れない。
 1/20実測以来ずっと感じてたけど、もう図面描きとしてのピークは過ぎたんじゃないだろうか。しかも仕事中に疲れを感じるなんて……。
 体力・気力ともにもうこれ以上は辛いな。こういう出稼ぎ形態での仕事ってのは。
 ……という気がする。何となくだけど。

9月6日
 やっぱり気分が今一つ乗らない。どうも巧いこと表現できない。けどペースの方はかなり押してきたことと調査員さんに念を押されたことでプレッシャーを感じ、特に午後からは少しペースが上がった。来週からは測量班を加えて2班体制で行く方針に。これで作業ペースがどう変わるのかを検討して、場合によっては第1調査区に限定してでももう1班送り込んで貰う必要がある。ただ、測量班に話を聞いたけど、ホント簡単な図面しか経験がないみたいだ。どこまで使えるかは未知数。
 朝から壱岐支庁の人とおぼしき方が現場を視察する。挨拶すらなかった程度の短い会話ではあったけど、こちらも事務所側と同様、自分たちに隔意を持っていない様な印象を受けたのは気のせいなのか? もしそうだとしたら確かに有難いことだけど……。
 でも、事務所側が来る直前に用事で現場を離れ、帰った途端に戻ってきたというのは、やっぱり気のせいなんだろうか。
 調査側から第2調査区の表土剥ぎに関しての打診がある。来週の後半くらいには入れてそこに作業員を投入したいとのことで、週明けは電話とかで忙しくなりそうである。所長も来るそうだし。

9月9日
 作業員さんに機械を読んでもらって2班体制、というのを試しにやってみる。が、あえなく挫折……。光を飛ばすのに5分以上もかかっているようでは話にならない。やっぱり2人でやるしかないようだ。
(「光を飛ばす」というのは光波測量機――目標点に立てたプリズムに向かって光を照射し、その反射の度合いで計算する測量用の機械――による観測の意)
 昼前、やっぱり所長が来た。設計変更に伴うものだったらしいが、やはりというか壱岐支庁から『報告が上がってこない』というクレームが来たらしい。覚悟はしていたから何とかする。その所長が珍しく、アワビを奢ってくれた。それもでっかいやつを生で。旨かった……。あと半分はどうしようかなあ。ふふふ。でもあのうんこみたいなのって、何か食えそう。だって昆布の味がするんだもん。
 現場はやっぱり押し気味。こりゃあ期間限ってでも追加人員送ってもらわないとなあ。

9月10日
 相変わらず図面にはてこずっていたが、「上面遺物には高さ要らないよ」との弁により急遽水糸手測りに切り替える。もうちょっと早く言って欲しかったが、そういえば最初にそういわれたような気も……。けどまあ、だったら話は早い。思いっきり得意分野だし。
 図面の方はけど、これで目処が立った。
 あとは事務処理関係だけだけど……これがまた問題なんだよなあ。はあ。


 11日以降はきわめて多忙となり、日記を書く余裕すらなくなる。仕様書に規定された日報を書き上げるので精一杯、帰ってきて夕食を支度したら風呂に入らぬまま寝てしまうことすらしばしばだった。一つには日報を書き直す作業に追われていたこともあったんだけど。
 こういうのが「そりゃあ、コミュニケーションが足りないな」という事なんだろうけど、会社のトップのくせに責任とらない人間には言われたくない。


9月24日
 現調査区における最大の山場であった遺物出土状況の平面実測が峠を越えた(終わってはいないんだけど)。今週中には間違いなく終わるだろう。それにしても細々とやらなきゃいけないことが多くてなかなか現場に集中させて貰えない。やるべき領分を大体だけど分担して、分業体制でやっててこれだもん。そのせいで作業が滞ることがあるけど、実際問題そうしてかないとやってけないし無駄でもある。2人でも組織なんだし、効率的にやってかないといけないと思うんだけど?
 あと、昨年度散々悪評を築き上げた大分の現場で、また仕事とったらしい。
 今年最大のミステリーだ。

9月25日
 昨日で峠を越えた図面がやっと終わった。今次調査においておそらくもっとも緻密な(図面の技術的な意味ではなくて)図面になるだろうところだったから、これ以後の図面進捗はやはりほぼリアルタイムに追随していけるだろう。
ふう。

9月26日
 昨日で作業員さんが交代となり、先月19日に1日だけ入ったB班が来た。慣れない作業にいきなり入ることで作業効率が落ちることはどうしても避けられないだろうけど、ある意味歓迎すべきことでもある。
 昨日図面が終わった遺物、取り上げる。あっという間に終わり、下層遺物の検出に入る。これまたあっという間に終わるが、ここから背骨(鯨or海豚)・櫛状鉄製品(20糎弱)・材質不明小玉(7粍程度)・下蓋骨(猪?)などが出てくる。思わぬご馳走(鯨)に舌鼓を打つ夫婦、しかし一本だけ残った櫛を巡って喧嘩となり、旦那は入れ歯を(下蓋骨)嫁御は首飾りを(小玉)落っことす、なんて場面が浮かんだりする。
 ……くだらねえ。
 作業員さんたちには大受けしたが。
(18日のドクターハル講演会によれば原の辻には積極的捕鯨の痕跡はなく鯨の利用はあくまでも偶発的なものであったらしい、そうだ。)

9月27日
 昨日取り上げたところの一つ北のグリッドに残った部分の図面も終わり、二つ南のグリッドの部分ともども取り上げる。これで第2調査区の取り上げがほぼ終わり、最大の山場を越えた。ただその分、ちょっとした作業が各区で頻発するようになってしまい、あちこち走り回る羽目に陥ってしまった。

9月30日
 第1調査区で最後に残った上層遺物の取り上げがやっと終わる。これでやっと次の段階へ行ける。それにしても時間がかかってしまった。こんなことじゃいけないんだけどなあ。


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